エバースピン(MRAM)がAI需要で将来性がやばすぎる? MRAMはすでに商業化?
- エバースピン(MRAM)がAI需要で将来性がやばすぎる? MRAMはすでに商業化?
- エバースピン(MRAM)の強みは?
- エバースピン(MRAM)の MRAM はすでに商業化されたか?
- エバースピン(MRAM)の主な顧客や取引先は?競合は?
- 今のメモリ市場の実態・勢力図は?
- エバースピン(MRAM)の売り上げ・利益は?
- エバースピン(MRAM)が AI によるメモリ高騰の需要を取り込む可能性は?
- なぜ“今”なのか —— メモリ市場の激変と Everspin のタイミング
- ただし注意すべきこと — MRAM の限界と競争
- 今後の展望:Everspin にとっての可能性とシナリオ
- なぜ「AI需要で将来性がやばすぎる」と言われるのか — 総括
- 最後に — 投資/技術/産業の観点から今後注目すべきポイント
- 結び
エバースピン(MRAM)がAI需要で将来性がやばすぎる? MRAMはすでに商業化?
近年、AI(生成AI/大規模言語モデルや画像生成モデルなど)の急拡大に伴い、膨大なデータ処理・メモリ需要が半導体産業にもたらす構造変化は想像以上だ。こうした環境変化のなかで、従来の DRAM や NAND フラッシュとは異なる新しいメモリ技術――特に不揮発性かつ高耐久・高速なメモリである「Magnetoresistive RAM(MRAM)」に注目が集まっている。
その代表格が、MRAM 専業メーカーの Everspin Technologies だ。同社は Toggle-MRAM、Spin-Transfer Torque MRAM(STT-MRAM)という主要な MRAM 技術を開発・供給してきた。では、今なぜ「Everspin の MRAM がやばすぎる」と言われるのか。本記事では、その背景、強み、実際の商業化状況、競合状況、メモリ市場全体の構造、そして Everspin の業績と今後の可能性を整理する。
エバースピン(MRAM)の強みは?
まず、MRAM/Everspin が持つ技術的優位性と強みを整理する。
・不揮発性 + 高速性 + 高耐久性
MRAM の最大の特徴は「不揮発性」であること — 電源を切ってもデータを保持する。一方で、速度や耐久性では従来の揮発性メモリ(例えば SRAM/DRAM)に近いパフォーマンスを実現できる。これは、MRAM が「不揮発性メモリの弱点(速度・寿命)」と「揮発性メモリの弱点(電源断時のデータロスト、消費電力、電池/バッテリバックアップの必要性など)」の両方を解消する可能性を持つ、ということを意味する。 ウィキペディア+2The Next Platform+2
特に Everspin の STT-MRAM は、DRAM のような速度、かつ不揮発性という「persistent DRAM(永続メモリ)」に近い性能を目指しており、書き込み速度、読み出し速度、耐久性、データ保持性などで優れている。 SEC+2エレクトロニックデザイン+2
・幅広い用途での汎用性と置き換えの容易さ
Everspin の MRAM 製品は、「Toggle-MRAM」「STT-MRAM」という2つの主要ファミリーに分かれ、多様な用途に対応可能だ。たとえば Toggle-MRAM は 128 kb 〜 32 Mb の範囲で、SPI/QSPI など業界標準のインターフェースを通じて、従来の SRAM、NVSRAM、FRAM、あるいは NOR フラッシュの代替として使える。 SEC+2PC Watch+2
一方 STT-MRAM はより高密度・高性能を追求しており、DRAM の代替や Flash/NOR の代替にも使える可能性がある。特にデータセンター用途、産業用途、自動車/輸送、医療、航空宇宙、防衛など、信頼性・耐久性・データ保持性が重要な分野で強みを発揮する。 SEC+2Trefis+2
また、Everspin は単体 MRAM チップだけでなく、組み込み(embedded)MRAM(eMRAM)の IP 提供やライセンス、さらにはファウンドリサービス(顧客回路に MRAM を統合するバックエンド処理)も行っている。つまり、メモリだけでなく、SoC やマイクロコントローラなどへの統合も視野に入れており、汎用性と領域適用の広さが強みだ。 SEC+2mram-info.com+2
・長年の実績と商業化のリード
Everspin は 2008年に設立され、早くから MRAM を商用化し、Toggle-MRAM などを出荷してきた。Discreate MRAM においては“世代”を重ね、第4世代に至るまで開発を続けてきた。 PC Watch+1
さらに、STT-MRAM についても量産体制を整えており、DRAM/Flash/NOR の代替を目指す“persistent memory”市場で先行者優位にある。 SEC+2エレクトロニックデザイン+2
加えて、製造は自社 FAB と、提携ファウンドリ(GLOBALFOUNDRIES)を活用。300 mm ウェハ上への STT-MRAM 統合も進んでおり、規模拡大とコスト効率化の両立を達成できるポテンシャルがある。 SEC+2SEC+2
・高い信頼性と産業用途向け
MRAM は磁気ビット技術を用いるため、放射線や電力断といった過酷な環境にも比較的強く、宇宙用途や産業用途、また自動車のような安全クリティカルな用途にも適している。Everspin はこの点もセールスポイントとして強調しており、特に組み込み用途やミッションクリティカル用途での採用を推進している。 SEC+2everspin.com+2
エバースピン(MRAM)の MRAM はすでに商業化されたか?
結論から言えば、「はい」、Everspin の MRAM はすでに商業化・大量出荷中であり、実用レベルで広く使われている。以下、その経緯と現状を整理する。
- Everspin は 2008年設立。翌年には初の MRAM を出荷。以降、Toggle-MRAM や STT-MRAM を順次投入し、商用ベースでの量産・出荷を継続してきた。 ウィキペディア+2PC Watch+2
- 同社 2024 年の年次報告によれば、Toggle-MRAM(128kb ~ 32 Mb)、および STT-MRAM(256Mb / 1Gb など高密度品)を製品ポートフォリオとしており、産業機器、自動車、医療、データセンター、航空宇宙など複数分野で導入されている。 SEC+2ウィキペディア+2
- また、Everspin は単なる部品供給だけでなく、eMRAM のライセンスおよびファウンドリ BEOL(バックエンド工程)サービスも提供しており、これによって顧客は自社 SoC に MRAM を組み込むことが可能になっている。すなわち、MRAM は「試作実験」ではなく「実運用・量産用途」に耐えうる技術である。 SEC+2SEC+2
- さらに最近では、同社の MRAM 製品「PERSYST MRAM」が、FPGA メーカー Lattice Semiconductor の全 FPGA ファミリーに対応した構成メモリとしてバリデーションされたという発表もある。これにより、産業用/自動車/宇宙用途など信頼性重視の領域で、MRAM を従来の NOR フラッシュの代替として使う道がさらに拡がっている。 everspin.com
これらの点から、Everspin の MRAM は「研究・試験」フェーズを脱し、商業化/実用化/量産導入のステージにあると言える。
エバースピン(MRAM)の主な顧客や取引先は?競合は?
顧客/用途
Everspin は主に OEM(オリジナル機器メーカー)および ODM を顧客としており、以下のような市場・用途をターゲットとしている。 SEC+2Trefis+2
- データセンターおよびエンタープライズストレージ:SSD、キャッシュ/バッファ、設定保持、書き込みキャッシュなど。 STT-MRAM は高密度&高速のため、バッテリバックアップ DRAM(persistent DRAM)の代替として有望。 エレクトロニックデザイン+2SEC+2
- 産業/工業用途(産業機器、自動化、制御、IoT デバイスなど):長期間安定動作、高い耐久性、データ保持性が重要な場面。 Toggle-MRAM/STT-MRAM の両方が利用される。 SEC+1
- 自動車/輸送/モビリティ:車載制御、パラメータ保存、ログ、設定保持など、安全性と信頼性が重視される用途。 SEC+1
- 医療、航空宇宙、防衛などミッションクリティカルな分野:放射線耐性、電源断後のデータ保持、長期信頼性が求められるため、MRAM が適合。 SEC+1
- FPGA/組み込みシステム:たとえば先述の Lattice Semiconductor との協業のように、FPGA の設定メモリとして MRAM を使う案件。これにより、従来の NOR フラッシュを MRAM に置き換える動きが進んでいる。 everspin.com+1
実際、2024年末時点で Everspin の MRAM 製品は、産業、医療、自動車/輸送、データセンター、航空宇宙など「ミッションクリティカルかつ高信頼性が求められる」多用途で利用されている。 SEC+2ウィキペディア+2
ただし、Everspin は B2B(企業向け)であり、消費者向け PC/スマホのメモリとして広く使われているわけではない。
競合と業界状況
Everspin が競合・対抗すべき相手、あるいは同じ領域での他社技術としては、以下のような企業・技術が挙げられる。 SEC+2investor.everspin.com+2
- 従来の不揮発性メモリ技術:NVSRAM、FRAM、NOR フラッシュなど。Toggle-MRAM はこれらの代替を狙っている。 SEC+2investor.everspin.com+2
- 揮発性メモリ(SRAM/DRAM):特に STT-MRAM は DRAM の代替、あるいはバッテリバックアップ DRAM の置き換えを狙う。 SEC+2エレクトロニックデザイン+2
- 既存大手メモリメーカーによる MRAM/次世代メモリ技術:たとえば大手半導体企業(DRAM/NAND メーカー)が MRAM やその他の次世代メモリ(例:ReRAM、FRAM、NRAM など)への投資を強めており、将来的には競合になる可能性がある。Everspin 自身も、文書で将来的な競合の可能性を認めている。 SEC+2investor.everspin.com+2
- 代替次世代メモリ技術(ReRAM、RRAM、FeRAM、あるいは新興のメモリ技術):市場では MRAM だけでなく、多様な NVM(Non-Volatile Memory)が開発されており、MRAM はその一つに過ぎない、という側面もある。 スプリンガーリンク+1
つまり、Everspin は「先行する専業 MRAM ベンダー」という強みを持つが、同時に大手メモリ / 半導体メーカーや新興のメモリ技術との競争も避けられない。特に、コスト(1ビットあたりのコスト)、大容量化、量産性、採用エコシステムの広さ(例えば IP、コントローラ、ファウンドリ/Ecosystem)という面で、大企業や他技術との競争圧が強い。
今のメモリ市場の実態・勢力図は?
ここ数年、特に「AI ブーム」によって半導体メモリ市場の構造が大きく揺らいでいる。そのなかで、DRAM、NAND、そして HBM(High Bandwidth Memory)などの需要が急激に増加している。Everspin のような MRAM プレーヤーにとっても、市場全体の勢いと不確実性が機会とリスクを同時にもたらす。以下、現状のメモリ市場の概観。
・メモリ市場全体の急成長と AI の牽引
複数の市場調査が、メモリ市場が再び拡大サイクルに入っていると報告している。例えば、Yole Group は、世界の半導体メモリ市場が 2025年に過去最高の規模(約 2200 億ドル超)になると予測。2023年以降、年平均成長率(CAGR) 16%ほどで成長を続け、2029年にはさらに拡大するという見通し。 EE Times Japan+1
この成長の牽引役として挙げられているのが、AI を支えるデータセンター、AI インフラ、AI サーバー、学習・推論ワークロードの増加、およびそれに伴う高帯域・高容量メモリの需要拡大だ。 テックインサイト+2EE Times Japan+2
特に、AIのような大規模データ処理では、メモリの帯域幅(bandwidth)や帯域密度、高速アクセス、安定供給が重要。これが伝統的な DRAM/NAND に対する需要を押し上げている。 テックインサイト+2KairiLab 思考のノート+2
・DRAM/NAND による高価格化と供給逼迫
AI 需要の高まり、かつサーバー/データセンター向けの高帯域・高容量メモリ(例えば HBM)の需要増加により、従来型 DRAM や NAND でも供給が逼迫し、価格が大きく上昇している。 最近の報告では、HBM 出荷が急増、DRAM の供給余力が低下。これにより 2024–2025 年、メモリ価格全体が上昇する見通し。 テックインサイト+2テックインサイト+2
また、従来型 DRAM/NAND のみならず、高帯域メモリや SSD 用 NAND、3D NAND、QLC NAND など高密度ストレージへの需要も増えており、メモリ市場全体が「供給逼迫 × 需要急増」のサイクルに入っている。 EE Times Japan+2マイナビニュース+2
この背景には、AI サーバーやデータセンターが必要とする膨大なメモリ量、高速アクセス、高帯域、そしてストレージ容量の増加がある。つまり、従来の PC/スマホ向けメモリ需要とは質・量ともに異なる需要がメモリ業界全体を引き上げている。
・HBM や高付加価値メモリへのシフト
このような環境では、単なる大量出荷・低価格メモリよりも、高帯域・高容量・高性能を持つメモリが重宝される。特に AI 用途では、High Bandwidth Memory(HBM)など高付加価値メモリの需要が急増中だ。多くの DRAM サプライヤが HBM 生産に注力しており、一般向けメモリの供給が制限される傾向にある。 テックインサイト+2EE Times Japan+2
そのため、従来の DRAM や NAND で構成されたメモリ市場だけでなく、高付加価値メモリの割合が増し、メモリ市場全体の収益性構造が変化している。これは、単なるビット量ではなく、“機能・性能・付加価値”で選ばれるメモリへのシフトを意味する。
エバースピン(MRAM)の売り上げ・利益は?
Everspin は上記のような有利なポジションを持つが、実際の収益規模や財務状況はどうか。最新の公開情報から整理する。
- 2024年の決算報告によれば、Everspin の総売上高は 5040万ドル。2023年は 6380 万ドル。粗利益率(Gross Margin)はそれぞれ 51.8%/58.4%、純利益は 2024年が 80 万ドル、2023年は 910 万ドル。 SEC+1
- また、顧客基盤は幅広く、2024年時点で 1,435 を超えるエンド顧客がいると報告されており、そのうち上位 2 顧客で総収益の 37% を占めている。2023年も同様に上位 2 顧客で 32% を占めた。つまり、顧客への依存度は高いものの、それでも分散された顧客基盤を持っており、B2B の安定した受注構造がある。 SEC+1
- ただし、売上高が数千万ドル規模である点は、DRAM/NAND 大手に比べるとかなり小さい。これは Everspin が“ニッチかつ高付加価値”市場を狙っていること、そして MRAM がまだ大容量ストレージ/メモリとして主流ではないことを意味する。
- 最近(2025年Q3)の四半期決算では、MRAM 製品の売上が前年比で +22% 増加し、売上総利益率も 51.3% と報告されている。現金残高は 4,530 万ドルと潤沢で、有利子負債はなし、という健全な財務状況。 Investing.com 日本+1
総じて言えば、Everspin の MRAM ビジネスは「安定して黒字を維持しながら、着実に成長」している。ただし、規模としては大手メモリメーカーに比べると「ニッチ」であり、主に産業・組み込み用途への B2B 販売である。
エバースピン(MRAM)が AI によるメモリ高騰の需要を取り込む可能性は?
では、AI ブームによるメモリ市場全体の高騰と供給逼迫のなかで、Everspin および MRAM がどこまでチャンスを掴めるか。いくつかの観点から考えてみる。
✅ チャンスとなる理由
- AI / データセンターのニーズと MRAM の特性の親和性
- AI サーバー、データセンター、エッジコンピューティング、産業 IoT/制御用途などでは、高速なメモリアクセスと、電源断時のデータ保持、高耐久性が求められる。これはまさに MRAM の強みだ。
- また、AI 向けインフラの需要拡大で DRAM や NAND(および HBM)の供給逼迫・価格高騰が生じている。こうした環境では、「高付加価値・高信頼性・永続性メモリ」である MRAM に再注目が集まる可能性がある。
- コスト以外の価値(信頼性/耐久性/省電力/データ保持)への需要増
- AI 用途だけでなく、自動車/産業/医療など多様な分野で、データ保持性や電源断に強いメモリが求められており、MRAM はそうした“付加価値ニーズ”を満たせる。
- 特に、組み込み用途やミッションクリティカル用途では、単なるコスト/容量競争よりも、信頼性や寿命、データ保持が重視されるため、MRAM の採用余地はある。
- 量産体制とエコシステム整備の実績
- Everspin は既に MRAM を量産し、供給できる体制を整えている。STT-MRAM を含めた製品群、販売チャネル、ファウンドリ連携、IP ライセンス、エンド顧客への供給実績がある。
- 最近では FPGA との協業なども進んでおり、用途拡大の可能性がある。
これらを考えると、AI によるメモリ高騰・供給逼迫という外部環境の変化は、むしろ MRAM のような代替メモリを持つ企業にとってチャンスになり得る。
⚠️ ただし、ハードルや課題も少なくない
一方で、以下のような制約・リスクもあることを忘れてはならない。
- 容量あたりコストの差:DRAM や NAND に比べ、MRAM(特に Toggle や初期世代)は、ビットあたりのコストが高く、大容量用途(例えば大量のメモリやストレージを必要とする AI モデルのキャッシュなど)では、コスト競争力に劣る可能性がある。
- 大容量化・高密度化の限界:MRAM は DRAM/NAND のように「テラバイト級ストレージ」や「多ギガバイトのメインメモリ」として広く使われているわけではない。特に、AI のような莫大なメモリキャパシティが必要な用途では、現状の MRAM だけで代替するのは難しい。
- 競合技術や大手メモリメーカーの動き:大手が MRAM や他の次世代メモリ、あるいは既存の DRAM/HBM/NAND の強化に動けば、MRAM の需要拡大は限定的になる可能性がある。
- 市場の主流ではないという現実:Everspin の売上高が示すように、現時点ではあくまでニッチ用途/産業用途向け。大半のコンシューマ用途や大容量用途では DRAM/NAND が主流であり、MRAM が置き換えるのは難しい。
結論として、AI によるメモリ高騰と供給逼迫という環境変化は、Everspin/MRAM に「チャンス」を与えるが、それが「革命的な普及」「DRAM/NAND を丸ごと置き換える」というレベルになるかは、コスト、容量、高密度化、エコシステム、標準化など多くの要素が関係する。
なぜ“今”なのか —— メモリ市場の激変と Everspin のタイミング
ここまでで見たように、Everspin の MRAM には技術的強みと商業化実績がある。一方で、メモリ市場全体が AI による需要拡大、高帯域メモリへのシフト、供給逼迫と価格高騰という “逆風” のような事態になっている。しかし、これは MRAM のような代替メモリにとっては追い風になりうる。
特に以下のような点で、タイミングが合っている。
- 大手 DRAM/NAND メーカーが AI 向け HBM/高付加価値メモリに注力し、従来型メモリの供給が逼迫。これにより、高付加価値や用途特化型メモリのニーズが相対的に高まる。
- AI サーバーやデータセンターだけでなく、産業用途、自動車、組み込み用途など、さまざまな「信頼性重視、高耐久、高データ保持」用途でのメモリ需要も再認識されている。
- Everspin はすでに量産・供給体制を整えており、FPGA などとの協業も進んでいるため、用途拡大のチャンスが存在する。
つまり、「AI 時代のメモリ逼迫」というマクロな構造変化 × 「MRAM の成熟と実用化」というミクロな技術・ビジネスの両面が重なる好機──これが、今「Everspin(MRAM)がやばすぎる」と言われる理由だ。
ただし注意すべきこと — MRAM の限界と競争
一方で、以下のような限界やリスクも見逃せない。
- 容量とコストの問題:大規模 AI モデルやデータセンター級用途では、テラバイト級/ギガバイト級のメモリ/ストレージが必要になることが多く、現状 MRAM がそのキャパシティとコスト効率で対応できるかは未知数。
- 代替技術との競争:例えば、他の次世代不揮発性メモリ(ReRAM、FeRAM、NRAM など)や、既存 DRAM/HBM/NAND を高帯域・高密度化する技術革新が進む可能性がある。
- エコシステムと標準化:普及には、コントローラ IP、ファウンドリサポート、設計ツール、業界標準インターフェースなどのエコシステム整備が必須。Everspin はすでに一部整えているが、業界全体で標準化が進むかは不透明。
- 市場規模の限界:現在の Everspin の売上高を見ても、MRAM が主流メモリになるには、まだ相当な成長と普及が必要。特にコンシューマ用途、大容量ストレージ用途では DRAM/NAND の優位が続く可能性が高い。
今後の展望:Everspin にとっての可能性とシナリオ
最後に、Everspin および MRAM の将来展望を、いくつかのシナリオに分けて考える。
シナリオ A:産業/組み込み/ミッションクリティカル用途での安定成長
このシナリオでは、Everspin は引き続き産業機器、自動車、航空宇宙、防衛、医療などのミッションクリティカル用途における MRAM の安定供給者として位置づけられる。DRAM や NAND の価格高騰や供給リスクを背景に、信頼性・耐久性・データ保持性を重視する顧客には今後もニーズがあり、Everspin は安定的な需要を取り込める。
また、FPGA や SoC に組み込む eMRAM や IoT デバイス用途の広がりによって、用途拡大も期待できる。
シナリオ B:AI/データセンター用途での限定採用拡大
もし MRAM(特に STT-MRAM)が、特定用途、例えば構成メモリ、設定保存、キャッシュ、ログ保持、設定保存、あるいはバッテリバックアップ DRAM の代替として “部分的” に AI サーバーやストレージシステムに採用されるようになれば、Everspin の事業拡大の余地はある。ただし、テラバイト級のメモリや大容量ストレージを MRAM で置き換えるのはコスト・技術的にハードルが高いため、「限定用途の補完」という形になる可能性が高い。
シナリオ C:主流メモリ化・普及拡大(ただし条件付き)
最も楽観的なシナリオでは、MRAM(あるいは MRAM を含む新興不揮発性メモリ)が、将来的に「汎用メモリ/ストレージの選択肢のひとつ」として一定の地位を確立する。これは、以下の条件がそろった場合だ:コストの大幅低下、高密度化、大容量化、標準化・エコシステム整備、コントローラ対応、および大手メーカーあるいは多数の顧客による採用。
しかし、このシナリオが実現するには時間がかかる可能性が高く、また DRAM/NAND/HBM/その他の次世代メモリとの競争にも打ち勝つ必要がある。現時点では「可能性としてはあるが、かなりチャレンジング」という立場だ。
なぜ「AI需要で将来性がやばすぎる」と言われるのか — 総括
以上を踏まると、「Everspin(MRAM)が AI 需要で将来性がやばすぎる」という表現は、決して過剰なバズワードではない。ただし、それは「MRAM がすべてを置き換える」という意味ではなく、「今後のメモリ需要の構造変化のなかで、MRAM のような代替技術が有利に働く可能性が高い」という意味だ。
特に、AI/データセンター/産業/組み込み/ミッションクリティカル用途といった高付加価値用途では、MRAM の強み(不揮発性、高耐久、高速、信頼性、省電力、データ保持性)が活きる。しかも、Everspin は既に商業規模で量産・供給しており、FPGA などとの協業も進んでいるため、「実用フェーズ」にある。
一方で、容量、コスト、エコシステム、競合技術などの壁は依然として存在する。したがって、MRAM がメモリ市場全体の主流になるには、まだ道のりは険しい。
だが少なくとも、「AI 時代のメモリ逼迫」「高信頼性メモリへのシフト」「高付加価値用途の拡大」といったマクロトレンドの中で、Everspin の MRAM が“フェーズ転換点”を迎えている可能性は十分ある — そう考えると、「将来性がやばすぎる」という表現は、少し大げさではあるものの、決して間違ってはいない。
最後に — 投資/技術/産業の観点から今後注目すべきポイント
読者や投資家、業界関係者が今後 Everspin や MRAM を注目するなら、以下のような点に注目すべきだ。
- 大容量・高密度 MRAM の進展 — STT-MRAM のさらなる高密度化、大容量化、コストダウンが進むか。特にギガビット/ギガバイト級への道筋がつくか。
- エコシステムの拡充 — コントローラ IP、ファウンドリ対応、規格化、導入事例の拡大。FPGA、SoC、工業用途、自動車用途など幅広い用途での採用。
- 競合技術との比較優位 — ReRAM、FeRAM、次世代 DRAM / NAND / HBM、あるいは新たな不揮発性メモリ技術との競争状況。
- メモリ市場全体の需給バランス — AI による DRAM/HBM/NAND の供給逼迫・価格高騰がどこまで続くか。AI サーバー以外の用途(PC、スマホ、IoT など)の需要回復や供給増加があるか。
- Everspin のビジネス展開と財務健全性 — 売上の伸び、顧客ポートフォリオの多様化、製造体制(自社 FAB + ファウンドリ連携)の強化、キャッシュフローと利益率の維持。
これらの要素がそろえば、Everspin の MRAM は「ニッチな特殊用途メモリ」から、「AI/産業/エッジ/組み込み時代の主要メモリオプション」のひとつへとステップアップする可能性がある。
結び
AI ブームによってメモリの需要構造は大きく変わりつつある。従来の DRAM/NAND だけでは対応しきれない、「高帯域・高速度・高耐久・不揮発性・信頼性」という新しい要求が、半導体メモリ産業にもたらす変革は本物だ。
そのなかで、Everspin が長年育ててきた MRAM 技術は、まさに“時代の要請”とマッチする。既に商業化され、実用規模で量産・供給されている MRAM は、単なる“次世代メモリのお試し”ではない。
とはいえ、容量、コスト、競争、エコシステムなど多くの壁がある。だからこそ、今後数年が勝負だ。もし Everspin がこれらのハードルを乗り越え、かつ市場の変化が追い風となれば、「MRAM=未来の主要メモリ」というシナリオが現実になる可能性は十分ある。
「Everspin(MRAM)が AI 需要で将来性がやばすぎる?」――はい、その可能性は間違いなくある。ただし、それは「楽観的な一部の未来の可能性」であり、「確定した未来」ではない。読者としては、技術動向、メモリ市場の需給、Everspin の製品開発とビジネス展開に注目しつつ、冷静に見守る価値がある。
