防衛産業は儲からない? 防衛産業が儲からないのが事実である理由
「防衛産業は儲かる—。」
このイメージは世間に根強い。しかし、実態を精査すると 防衛産業は“割に合わない”産業であり、むしろ低収益モデルで企業が撤退し続けるほど採算性が低い。日本でも欧米でも、防衛企業は利益率でIT企業に大きく劣り、ビジネスとして見た場合は“最も儲からない産業の一つ”と言っても過言ではない。
本記事では、防衛産業がなぜ儲からないのか、世界の産業構造の変化、ビッグテックとの比較、そして誤解が生まれる背景を徹底解説する。
■ 防衛産業は儲からない? 利益率は一般製造業以下の水準
まず明確にしておきたいのは、防衛産業の利益率は驚くほど低いという事実である。
● ロッキード・マーティンの利益率:10%前後
世界最大の軍需企業であるロッキード・マーティンでさえ営業利益率は 8〜10%台。
“国防予算で潤っている”という印象とは裏腹に、収益性は一般的なハイテク企業と比べて圧倒的に低い。
● 三菱重工も利益率は低い
日本最大の総合重工である三菱重工業の利益率は 5〜6%前後。
民間機部門の赤字補填が続き、防衛事業単体で見ても巨額投資の割に利益率は高くない。
● なぜ儲からないのか?
- 国防省・政府が価格決定権を握っている(“言い値で売れない”)
- 納期・品質基準が異常に厳しい
- 開発期間が長く、数十年単位で費用回収が必要
- 競争入札による価格圧縮
- 不具合・事故の責任が巨大(違約金リスクあり)
- 巨額の前払い投資が必要でキャッシュフローが弱い
つまり、防衛産業は“政府に利益を抑えられる超重規制産業”であり、自由競争で高収益を上げられる業界ではない。
■ 防衛産業が儲からないのが事実である理由
防衛産業が「儲からない」と断言できる理由は複数ある。ここでは特に重要な4つを深掘りする。
① 価格は政府が決めるため利益を盛れない
防衛装備品はすべて政府が価格査定を行う。
企業は利益を10%乗せたいと思っても、国が許容しなければ通らない。
これは日本でもアメリカでも同じだ。
企業が自由に価格をつけることができない産業は儲からない。
② 開発費が莫大すぎる
F-35戦闘機の開発費は 5兆円超。
ミサイル防衛システム、潜水艦、護衛艦など、ほぼすべてが“巨額の開発投資を回収するまで数十年かかる”構造となっている。
しかも、将来計画が変われば 開発費を企業側が損失として抱えるケースもある。
③ 政治リスク・輸出規制リスクが異常に高い
- 政権交代で防衛計画が一気に変わる
- 輸出が政治判断で禁止される
- 国際紛争で取引国が制限される
自由に世界市場で売れないため、ITのように“規模の拡大”で儲かる構造が作れない。
④ 有事のときほど企業は儲からない
一般の誤解として「戦争が起きると軍需企業が儲かる」と思われがちだが、それは半分誤りだ。
有事になると政府は価格規制をさらに強め、企業に 最大限のコスト開示 を求める。
また、短納期で大量生産が必要となり 原価率が大幅に上昇 するため、むしろ利益率が下がるケースが多い。
■ ビッグテックやIT企業の方がロッキードや三菱重工より遥かに大きい
産業規模で見ると、軍需産業はテック産業に比べると小さすぎる。
● 企業規模の比較
| 企業名 | 時価総額 | 主力産業 |
|---|---|---|
| Apple | 約400兆円 | IT(消費者向け) |
| Microsoft | 約500兆円 | IT(AI・クラウド) |
| NVIDIA | 約350兆円 | 半導体・AI |
| ロッキード・マーティン | 約15兆円 | 防衛 |
| レイセオン | 約15兆円 | 防衛 |
| 三菱重工業 | 約2兆円 | 防衛・エネルギー |
時価総額を見れば、ITは軍需産業の20倍〜50倍以上の規模を持つ。
世界の経済は「IT+AI」が中心であり、防衛産業は決して巨大産業ではない。
■ ビッグテックは戦争がない方が儲かる。政治資金・ロビー力も軍需の比ではない
ここも誤解が多いポイントだが、ビッグテックは戦争で儲からない。平時のほうが圧倒的に儲かる。
● 理由
- 消費者向けサービス=平和・安定が最大の需要拡大要因
- グローバルサプライチェーンが止まると即損失
- 半導体・クラウド・広告は戦争時に需要が下がる
そして、ビッグテックの影響力は政治面でも軍需産業を圧倒している。
● ロビー活動費の比較
| 分類 | 年間ロビー支出(米国) |
|---|---|
| META, Amazon, MicrosoftなどIT大手 | 数千億円規模 |
| ロッキード等軍需企業 | 数百億円〜千億円 |
政治献金・ロビー支出でも、軍需企業よりビッグテックのほうが“桁違いに巨大”である。
つまり、現代において 世界を動かす産業は軍需ではなくテック であり、経済的・政治的影響力は防衛産業を圧倒している。
■ “防衛産業は儲かっているように見せる”政治家やメディアがいる理由
ここは慎重に説明するが、
防衛産業=儲かっている産業
というイメージが作られる背景には、以下の要因がある。
- 防衛費増額=政治の象徴となり、メディアが話題として扱いやすい
- 国家安全保障は感情的議論になりやすく、数字の誤解が生まれやすい
- “軍需企業が儲かる”という物語の方が人々の関心を引きやすい
結果として、実態とは異なるイメージが流布しやすい。
ただし、特定の外国勢力の陰謀と断定できる証拠は存在せず、
私たちが着目すべきは 「誤解を利用して政治的議論を操作しようとする勢力が国内外で存在し得る」 という点である。
■ 結論:防衛産業は“儲からない”。儲かるのは圧倒的にIT・AI産業
本記事の結論は明確だ。
- 防衛産業は利益率が低い
- 政府に価格を規制され儲けにくい
- 開発費が巨額で回収が困難
- ビッグテックのほうが圧倒的に巨大で利益も影響力も強い
- 戦争で儲かるというのは誤解
- 防衛産業の実態は“重くて儲からない社会インフラ産業”
現代の“儲かる産業”とは、
AI・半導体・クラウド・ソフトウェア であり、
防衛産業は国家の安全保障を支えるための“公共性の高い低収益産業”に過ぎない。
